メソポタミア文明における「ごま」
2025-04-23

1. ごまの栽培
ごま(Sesamum indicum)は人類最古の油料作物のひとつであり、メソポタミアでは紀元前2500年頃にはすでに栽培されていました。乾燥地に強く、灌漑が不十分な土地でも育つため、ティグリス・ユーフラテス川流域で重宝されました。
- 栽培サイクル:春に種まき、夏に開花、晩夏に収穫
- 収穫方法:刈り取り後、自然乾燥 → 脱穀 → 風選
2. ごま油の利用と医療的価値
ごま油は「液体の金」とも称され、以下の分野で広く使われました。
食・生活
- 調理油(炒め物・煮物)
- 灯火用油(ランプの燃料)
医療
- やけど・皮膚病:軟膏の基材
- 関節痛・筋肉痛:マッサージオイル
- 内服薬:咳止め・喉の痛みに用いた
- ごま油はハーブ成分を抽出・媒介する役割も持っていた

3. 神聖な香油としてのごま
メソポタミアでは、ごま油は宗教儀式においても不可欠でした。
- 神殿の灯明に使用(神の臨在の象徴)
- 神像への塗油(聖なる力の供給)
- ごまを使用した供物の調理
また、創世神話『エヌマ・エリシュ』には「神々が生まれる前にごま酒が注がれた」と記され、ごまが神々に先んじる存在として登場します。ごま酒はごまをすりつぶし発酵させた「神聖な飲料」と考えられます。
4. ごまの交易と国際的価値
ごまは、メソポタミアとインダス文明との間で活発に交易されました。
交易ルート(紀元前2300年頃〜)
インダス川流域(ごまの原産地)
↓ 船でアラビア海を越えて
ディルムン(現・バーレーン)
↓ 船またはキャラバン
メソポタミア(ウル、ウルク、ラガシュなど)
- ごま油はインダス産の重要な輸出品
- 粘土板には「ごま油の到着」や「供物としての使用」の記録があり、神殿・王宮での使用が確認されています
5. 他文明との関係
インダス文明
- ごまの原産地に近く、最初の栽培地とされる
- ごまやごま油をメソポタミアに供給
古代エジプト
- ごま油は香料・医薬用として間接的に使用(主にオリーブ油が主流)
古代ギリシャ・ローマ
- メソポタミア由来の知識が伝播し、医学・料理で使用
結論:ごまは文明をつなぐ「金色のしずく」
ごまは単なる食材ではなく、
神に捧げる香油、民の命を守る医療油、文明をつなぐ交易品として
メソポタミア世界に深く根づいていました。